お嬢様 × 御曹司

キューブレーキをかけることもなく、ふと立ち止まるぐらいの勢いで、ゆっくりと車が静止した。


助手席と運転席が開く音がする。


それと同時にたけくんが私に耳打ちをしてきた。


「少しの間手を繋げなくなっちゃうね。」


…そういうことをさらりと言うな!


その言葉だけでドキドキ胸が高鳴っちゃうんだからね!


「だ、大丈夫。」


私が意地を張ってそっぽ向いて答えると、たけくんは一瞬驚いてから、


「ふーん…」


たけくんが意地悪そうな笑みを浮かべた。


やばい…これはたけくんのスイッチを入れちゃった感じ。


「…ぁ」


-ガチャ


訂正しようとしたところでドアが開いた。


「到着いたしました。周囲の安全が確認できましたので、どうぞ。」


聖の声を聞いてから、先頭切ってたけくんが降りる。


花は、「最後に確認することがありますから、私は最後で構いません。」と言っていたから、次に降りるのは私だよね?


降りようとすると、たけくんが手を差し伸べてきた。


軽く手を乗せて車を降りる。


暑くさす日の光が、気持ちいいほど体にしみる。


あまりの眩しさに目を細める。


後ろから花も降りてきた。


「荷物はこちらで持って行きますから、武士様と聖夜様は先に…」


「いいです。自分たちで持って行きます。そのくらいはやらないと。」


たけくんは聖の言葉を遮り、荷物を降ろしに向かう。


私も少し考えた結果、たけくんの後を追って走って行った。




聖と花はその様子を見て、あっけにとられ佇んでいた。


臼井さんはこう話した。


「大奥様は、自分のことを自分でやらないと武士様をお叱りになられるのです。武士様がしっかりなさっているのは、大奥様のおかげでしょう。」


車の整備を終えて、聖と花の前に出た臼井さんは、振り返って笑顔になり続けた。


「今回はあなたたちが試される版でもあります。私は数年前まで執事やメイドの指導者として働いておりましたから、判定は厳しくなりますよ。」


聖は、臼井さんのめがわらっておらず、鋭く光っていることに気がついた。


夏の暑さと臼井さんの威圧的なオーラに、花も聖も汗が背中をつたる。


臼井さんは正面を振り返って言った。


「やめましょう。今回はせっかくの旅行ですから。」


歩き出した臼井さんに駆け寄る二人。


「あなたたちが今回学ぶのは、あなたたち自身が我慢をすることでしょうね。」


二人はその時、その言葉の意味を理解できなかった。


また、私とたけくんは三人がこんな会話をしていたことは、知る由もないのだ。