「…本当に花はなんでもできるね?」


浴衣を着たい!という私の要望に、花は二つ返事で応えた。


「はい。もちろんです。」と。


花火大会当日の午前中に浴衣と着物の専門店に行って浴衣を選び、たまたま一緒に行けた父さんに買ってもらった。


父さんは気難しい人だけど、一緒にいる時間の短い私と妹には優しく接してくれる。


…いや、娘だからかもしれないが。


そうそう、たけくんからの返事は誘った日の夜だった。


案の定会社についての説明を受けてきていたらしい。


[行きたい、花火大会。俺も、聖夜に会いたい。]


その返事を見ただけで私は嬉しくて死にそうだった。


話は今にもどる。


白い布にピンク色の桜が描かれている可愛い浴衣を、日が沈みかけている夕方の今、花は完璧に着付けてくれた。


今はドレッサーの前に座らされて、髪の毛をアップのお団子にされる。


そこに、桜モチーフのかんざし。


「できましたよ。せっかくのデートですから、オシャレしたいですもの。」


私より花の方が浮かれているように見える。


花にたけくんと付き合うことを話した時はいろいろ質問攻めされたけど、それはただの好奇心で…


特にそのことについて花から口出すことはないと言っていた。


ただ報告はしてくれないと怒る、とも。


花には許婚がいるらしく、「似たようなものですよ。」と笑って言っていた。


「お気をつけてくださいね?花火大会といえども何が起こるかわかりませんから。もちろん日野原財閥の執事やメイドたちが私服警備員となって皆さんを見守っておりますけど…」


それはそれで怖いですから!


でも、男子友達と二人で花火大会に出かける、と伝えてあるはずだから、はたから見たら付き合ってるようには見えないだろう。


少なくとも、日野原家関係の人たちにはね!


「あー早く行きたいな。」


ふふふと花は笑って言う。


「そう焦らないでください。急がば回れ、と言いますし。」


「うん。」


それから少しして、18時ジャスト。


待ち合わせは桜野河川敷(さくのわかせんじき)の第一橋に18時30分。


そういえば今日は兄さんを見てないな。


まあ、寝てるのかもしれないし、気にすることないか。


「じゃあ、行ってきます。」


「お気をつけて行ってらっしゃいませ。」


花とたまたま居合わせた聖に見送られ、ゆっくりと歩き出す。


急いでもいいことはない。


ゆっくり、転ばないようにあるって行こう。