「はい、紅ちゃん。紅茶入れたよ。」
午後3時頃、小雪ちゃんがそう言ってマグカップに入れてくれた紅茶を私のデスクに置いた。
「それにしても藤沢さん、まだ不機嫌だねぇ。紅ちゃんが櫻井さんと何かあるわけ無いのに。」
ありがとう、と言いかけて小雪ちゃんのその言葉で私は止まった。
え、なんのこと。と思って小雪ちゃんのほうを勢いよく向くと、彼女は私以上に驚いた。
「えっ、紅ちゃん知らないの!?紅ちゃんと櫻井さんが駅ビルのカフェで子供を生むとかいう話をしてたって噂が出回ってるよ!噂にしたって藤沢さんになんか言わなきゃ勘違いされたままなんじゃない?」
噂……、いや、でも嘘ではない。確かに子供を生むことについては話したけど。
噂を流した人からは花依さんが見えなかったのか!
私が黙りこくっていると、小雪ちゃんがそれを察して「うそ、噂じゃなくて本当のことなの⁉」と声のトーンが上がった。
小雪ちゃんが、あっと思ったときにはもう遅かった。こんなに近くにいて聞こえない方がおかしい。
藤沢が眉を潜めてこちらを鋭い眼光で見つめた。
すぐに藤沢はパソコンの画面に目線を戻したけれど、一瞬のことだったにも関わらず、藤沢のその目と目があった私と小雪ちゃんはしばらく微動だにしなかった。
メデューサのように、見たものを石化させる能力が藤沢にも多分あるんじゃないだろうか。

