恋なんてするわけがないっ‼






「………え?花依が…?」




櫻井さんが俯かせていた顔を上げて、真っ直ぐに花依さんを見つめた。



「そうだよ、引いたでしょ。尋文が街で歩いてるときとかに子供を優しい表情で見て、可愛いなとか俺達も欲しいなって言ってたし、私も尋文との子が出来たら嬉しいって思ったんだもん。でも尋文は私が付き合い始めの頃に、結婚式をあげてから子供が出来たほうがいいよねって言ったのを気にして律儀に毎回ちゃんと着けてくれるから……」



そこまで勢いよく口にしてから、花依さんはひと呼吸置いた。




「私が最初にそういったせいで尋文がちゃんと守ってくれてるんだと思ったら、なかなか言葉には出来なくて、実力行使に出ました。ごめんなさい、自分のことしか考えてなかった…私の方こそ無責任だよ。こんなんで母親になるなんて駄目だよね…」





櫻井さんのかわりに花依さんが俯いた。


櫻井さんはそんなことない、と言ったがその後にどう言葉を発していいのかわからないようだった。








「どうやっても、子供は自分で生まれることを選べません。結局は親となる人たちの気持ちで生まれます。確かに『勝手』とも言えるでしょうけど、でもそれ以外に自分で生むことを選べない子供が、生まれた理由があるのでしょうか…。」




何言ってるんだ、私は。自分の子供がいるわけでもないのに、何を偉そうなことを言っているんだ。



「産もうとおもって産んだとしても、偶々産まれたとしても、子供自身が選べないことには変わりありません。『勝手』という言葉をあえて使うのなら、生んだことに責任を持たないことを『勝手』だと言うのだと思います。」



そう思うけれど、止められなかった。



「『勝手に生むなんて』と思うのは、生まれた後にその子供が世話をされなかっただとか、そういうことを経験するからだと思っています。」



伝えたい。
二人共が「親になる資格がない」と思っている親から生まれた子供のことを想像すると、黙ってはいられない。



「責任を持って世話をしても、イジメにあったり、嫌なことがあったりして『生まれなければ』と思う子もいるでしょう。そんな時だって支えてあげられる準備をしておけばいいんじゃないでしょうか。生んだからといって何でも自分が世話をする必要があるわけでもないと思うんです。」



実際、私は子供ながらにそんなことを考えた時期があった。



「子供が支えてほしいと思えば支えてあげればいい、必ずしも親に頼らなきゃいけないわけじゃない、友達だとか先生とか自分を知らない誰かに話を聞いてほしいときもあります。全部親が手とり足取り面倒を見ていたら、親も壊れてしまうし、子供にだってよくない。」



私の親は、私をしっかりと育ててくれた。そして共働きで比較的放任主義だった。
寂しいときもあったけれど私にはそれが生きやすかった。

話を聞いてほしいときは聞いてもらったし、言いたくないときは言わなかった。
彼らも無理に聞くことはなかった。





「結局生きるってそういうことだと思うんです。悪いことばかり考えて先に進まなかったら、何も良くはなりませんし、寧ろ後退していくんじゃありませんか?生まれた後の子供たちの人生を決めるのは周りの環境もありますが、結局は意志を持ったその子供自身だと、私は考えています。」