「それで、櫻井さん。まだそんなことを言っているんですか?」
私は櫻井さんの目をしっかりと見つめた。
櫻井さんはすぐに目をそらして俯いた。
「尋文(ひろふみ)は、別れたいの…?」
花依さんは櫻井さんに静かにそう聞いた。
ヒステリックになる様子はない。
問詰める、責めた様子もなかった。
ただ、そう聞いた。
櫻井さんは頭をゆっくりと左右に動かした。
「違う。ただ頭の整理が追いつかない。
俺が興奮して、つけるの忘れて出来ちゃった、でいいのか?」
以前に聞いたことを彼はまた繰り返した。
恐らく花依さんの様子から察するに、彼女もまた彼から前に聞いていたのだろう。
「私は尋文との子が出来て嬉しい。」
金曜日に櫻井さんから聞いていた通りだ。
確かに櫻井さんの「俺に気を遣って喜んでいるんじゃないか」というのもわからなくもない。
花依さんはとても静かに落ち着いてそう言うから。
だけど、私は花依さんが強い気持ちを持ってそう言っているのだとも感じた。
「俺の間違いで、出来た子でも、か?」

