「改めまして、紀田です。すみません、余計なことだとはわかっているんですが、どうしても口を挟みたくなってしまいました。」
誰も頼んだコーヒーに手を付けようとしない。
女性は戸惑った表情のまま口を開いた。
「小林花依(こばやし かえ)です。」
ぴったりな名前、と思った。まだ会って5分経ったか経ってないか、それぐらいだけど、彼女からは冬の透き通った朝のような雰囲気を感じる。
この人は芯のある人だ、そう思った。
戸惑いつつも私を見る目にはどこか強い意志をたたえている。
そこで、大事なことを言い忘れていたと気付いた。
「私は櫻井さんとはただの先輩後輩の仲ですから、お二人の関係を引き裂くつもりでここへ連れてきたわけではありません。」
私のその言葉に櫻井さんが付け足す。
「紀田には藤沢っていう立派な恋人がいるしな。」
そうなんですか、と花依さんに言われて顔が少し熱くなる。
花依さんの表情が少し和らいだ。
「それで……、」

