「……紀田、お前。」 櫻井さんが悩んだ顔のまま私を見た。 「櫻井さんと同じ部署で働いています、紀田紅華です。」 自己紹介を手短に済ませて女性の手を引く。 そのままカフェに向かった。 突然現れた変な女に手を引かれて、抵抗しても当たり前だと思うけれど、その女性は戸惑いながらも手を振りほどくこともせずについてきてくれる。 その後ろから櫻井さんもついてくる。いつも通りだったら、おい、とかなんとか言われそうなものだ。ただ今回はいつも通りの彼ではない。何も言わずについてきてくれた。