6時を少し過ぎた頃、私と櫻井さんは会社の近くの隠れ家的バーに来ていた。
会社から歩いて10分もしないところにこういうお店があるとは知らなかった。
「知らなかったらここみたいな路地入らないでしょうし、よく見つけましたね?」
サービスで出されたピーナッツを一つつまんでからそう聞くと、
まぁな、と一言だけ櫻井さんは答えた。
バーのマスターがグラスをカウンターに置く。私のはシャンディガフで、櫻井さんのはテキーラだ。
私は櫻井さんがグラスに口をつけずにただ弄ぶのを視界の端に映しながらアルコールを一口体に入れた。
生姜のピリっとした辛味と炭酸が、一週間分の仕事の疲れを少し飛ばした。
「……まだ籍も入れてないんだよな。」
櫻井さんは前触れもなくポツリとこぼした。
私は言葉を返さずに静かにグラスを置く。
櫻井さんがグラスを弄ぶ、その指を目で追いかけながらほんの少しだけ、分からないぐらい小さく体を櫻井さんの方へ向けた。

