『わかりました。進めておきます。先生は相変わらず大変そうですね。嶋田先生から聞いてますよ。なんか自分にできることあったら言ってください。できる限りのことはしますから!』
富田からの返信はちょうど夜ごはんを食べ終わる頃だった。律はありがとう、とだけ打って家への帰りを急いだ。待っている人がいるでもない、灯りもついていない、ただ空気だけが存在する空間。いつからこんなところになったのだろうかと、律はふと考えた。でもそんなことは、考えなくてもわかることだった。
その考えを振り切って、律は富田のことを考えた。
富田はもともと合唱部員ではなかった。わけあってバレーボール部を辞めて、合唱部に来たのだ。律が富田と初めて会ったのは、バレーボール部を辞めたその日だった。富田は礼拝堂にいた。電気が消され、ステンドグラスにも遮光カーテンがかけられた暗い礼拝堂で、富田は泣いていた。なぜ泣いていたのか律には今でもわからない。ただ、律はその日以来一度も富田の涙を見ていない。
だから律の中で富田は強い人間の一人として印象づけられていた。