玉置常務はシャツの袖で涙をぬぐうと、
「――お母さんは、僕のことが嫌いだったんですか…?」

震えている声で、お母さんに質問した。

その質問に、
「嫌いじゃなかった…」

お母さんは首を横に振った。

「あなたは私によく似ていて、雅志さんはあの人によく似ていた」

お母さんが言っている“あの人”とは、玉置常務のお父さんのことを指差しているのだろうと思った。

「雅志さんは長男で、3代目の跡を継ぐ運命が生まれた時点ですでに決まっていた…。

そのうえ、あの人によく似ていたから…。

間違っても、あの人と同じになって欲しくなかったから…つい、雅志さんばかりに接してしまったの…」

お母さんはそこで言葉を区切ると、
「そのことでよく、お義父さん――あなたのおじいさんに、いつも責められてた。

“どうして和歳のことを見ないんだ!”って、いつも言われてた…」
と、言った。