じれったい

「――お母さん…」

玉置常務はベッドに歩み寄ると、声に出して呼んだ。

閉じられていたその人の目がゆっくりと開かれて、玉置常務を見た。

「――和歳、さん…?」

かすれた声で名前を呼んだその人に、
「僕です…」

そう返事をした玉置常務の声は震えていた。

お母さんに名前を呼んでもらった、何より覚えていてくれたことに、泣きそうになったみたいだ。

お兄さんのところでたくさん涙を流したはずなのに、涙はまだ残っていたようだ。

「――和歳さん、きてくれたのね…」

そう言ったお母さんに、
「はい…」

玉置常務は首を縦に振ってうなずいた。

お母さんの頬に、一筋の涙が伝った。