「おう、どうした?」

旅館の裏にある従業員専用のベンチに座っていた僕に、仕事から帰ってきた祖父が声をかけてきた。

「おじいちゃん…」

そう呟いた僕に、
「どうした?」

祖父は僕の隣に腰を下ろした。

たったそれだけのことなのに、僕の目は潤んだ。

「おじいちゃん、僕は橋の下で拾われたの…?」

呟くように聞いた僕に、
「誰がそんなことを言ったんだ?」

祖父は驚いたと言う顔をすると聞き返した。

「さっき、仲居さんたちが集まって話をしていたの。

“和歳ちゃんは橋の下で拾われたんじゃない?”って」

僕は先ほどの出来事を祖父に話した。

それは、数分前のこと。

従業員専用の廊下を歩いていたら、仲居たちが集まって話をしていた。