じれったい

かきあげた前髪はオールバックのような状態になっている。

あっ、かっこいいかも…。

普段とは違う髪型の玉置常務に、私の心臓がドキッと鳴った。

でもワックスを使っていると言う訳ではないので、かきあげた前髪はすぐに滑り落ちた。

「あの、どうかしましたか…?」

心臓がドキドキと早鐘を打っている。

目の前の玉置常務に戸惑いながら、私は声をかけた。

「この雨の中ですから家に帰ることができなくなったんです。

交通機関の方も遅れが出ているみたいで」

玉置常務が言った。

「それで矢萩さんの家がこの近所にあることを思い出して、ここへ訪ねにきたと言う訳です。

突然の訪問でビックリさせてすみません」

ああ、そう言う訳で私の家にきたと言うことか。

突然の訪問で驚いたけれど、
「いいですよ、どうぞ」

激しく吹き荒れている暴風雨の中を追い出す訳にはもちろんいかないので、玉置常務を家の中に入れた。