「――物心ついた時から、私は母と2人でした」

気がつけば、玉置常務に自分の身の上話を切り出していた。

たった今彼に全部をつきつけられて隠す必要がなくなったから、話そうと言う気持ちになったのかも知れない。

「父はいませんでしたが、母が福祉関係の仕事に就いていたおかげでお金に苦労したと言う記憶は全くありません。

それどころか、それ以上の生活をしていたと思います。

マンションじゃなくて、一軒家に2人で住んでいましたから」

そこまで話すと玉置常務を見た。

「続けてください」

そう言った玉置常務に、私は話を続けることにした。

「子供の頃…って言っても、小さい頃なんですけれども母の言うことや注いでくれる愛情が当たり前だと思っていたんです。

育った環境もそうですけど、比べるものがなかったんです。

私はそれを全て当たり前なことだと受け止めていました」

雨はまだ降っていた。