仕事も無事にまとまってホテルを出たら、
「あっ…」

「これは、雨ですね」

真っ黒な雲から降り出しているそれに、私と玉置常務は声をあげた。

「仕方ありませんね。

では、今すぐに運転手にお電話をしてここまで迎えにくるようにと…」

スーツのポケットからスマートフォンを取り出そうとしたら、
「その前に少しだけお話をしませんか?」

玉置常務が取り出そうとした私の手を止めたかと思ったら、そんなことを言った。

「お話ですか?

いいですけども…」

これから何を話すと言うのだろう?

私はスマートフォンを取り出そうとした手を下ろすと、玉置常務を見つめた。

「昨日、どうして僕が君にキスをしたのかわかりますか?」

そう言った玉置常務に、私の心臓がドキッ…と鳴った。