「ひらめいた! 小説のアイデア!」
「本当か!?」
ガタッ、不知くんが席を立つ。
あたしはウインクして親指を立てた。
不知くんの目が子供のようにキラキラと光る。
「ねえ、路線変更ってどう!?」
「あー……」
すとん。
不知くんはわかりやすくテンションを下げながら席に座った。
「ちょっとー! 何よー! 名案でしょ!
そうだなあ。ここでコイは死んじゃって、それから幽霊になって、由麻を恨むの!
そこから幽霊になったあたしの復讐劇が始まる!」
「……うーん……」
不知くんはあんまり乗り気じゃなさそうだ。
「で、でも、これならキスしなくていいし、復讐劇とかホラーとか好きな人にウケるかも!」
うん! 我ながらナイスアイデア!
「……恋、実は、路線変更はあんまり良くない」
「えー! なんでー!」
折角のナイスアイデアなのに!
「……恋は、お気に入りの小説を見つける時、どうやって探す?」
「うーんと、そうだなあ。
まずはあらすじを見てー、最初の何ページかパラパラっとめくってー、文章とか、シチュエーションとか、雰囲気とか、自分に合いそうな小説を読む!」
「そう。俺もだ。多くの人はそうだろう。
だから、路線変更はあまりよくない。今も読んでくれる読者は、『この話が面白い』、『これから面白くなるかも』と思ってくれている読者だ」
「有難いね!」
「そうだな。めっちゃ有難いな。そう。ほぼ、本の善し悪しは序盤のページで決まるといっても過言ではない。
この作品が肌に合わない読者は、序盤のページで読むのをやめてしまうんだ」
真剣な顔でそう言う不知くん。
言われてみればそうかもしれない……。
「じゃあ、急にジャンルを変えてしまうとどうなる?」
たしかに、面白い! って思ってくれる人はいるかもしれないけど……。
……今読んでくれている人の何人かは読むのをやめてしまう。
……最新のページが気に入ってくれる人だって、そこまで読んでくれるかわからない……。
「ぜ、全体で見ると、読者は減ってく……」
「そうだ」
「……そっかー……じゃあダメだねー……」
……ん?
ちょっと待てよ?
ということは……。
「あたし、もうすでに詰んでない!?」
「……」
そーーーっと目を逸らす不知くん。
「ちょっとー! なんとか言ってよー!」
あたしはガシガシと不知くんの肩を揺さぶる。
不知くんはあたしと一切目を合わせてくれない。
