黒歴史と四人の王子様




────放課後。間宮くんのロッカーの前。



ふられるとわかっていても、どうしても心臓はバクバクと鳴ってしまう。



あたしは間宮くんのロッカーを開けようとして……やめる。



うう、早く入れないと……!



開けようとして、手を引っ込める……。



もー! こんなんじゃ、明日ハナに笑われる……!



開けようとして、手を引っ込める……。



ずーっとこうして何分もの時間が過ぎた。



ど、どど、どうしよう……ラブレターを入れることが、こんなに難しいなんて……!



あたしはスマホで時間を確認する。



今は18時50分。



間宮くんはサッカー部だから、部活が終わるまであと10分。



あと10分で、間宮くんが下校するために靴箱を開けに来る。



う、うう、はやく、入れないと……。



で、でも、どうせ、きっと、フられるし……。



……う、ううー! で、でもでも、ハナのいうとおり、万が一って可能性も……。



「と、とにかく、ロッカーを開けないと……」



あたしは勇気を出して、間宮くんのロッカーを開けた。



ドサーーーーッ



ロッカーにはパンパンに手紙が詰まっていたらしく、たくさんのそれが落ちてきた。



手紙にはすべてハートのシールがついている。きっとほかの女の子たちのラブレターなんだろう。



あたしの顔はみるみる青ざめる。



「ぎゃーーー!」



私は慌ててラブレターを拾ってはロッカーに詰めていく。



今は18時58分。



や、やばい、あと少しで、間宮くんの部活が終わっちゃうよー!



「よ、よし、詰めた! あ、あたしの手紙、入れ忘れた……」



……手紙を入れるにはまたあのラブレターでギュウギュウ詰めのロッカーを開けないといけない。



ど、どうしよう……。



い、いや! 秒で片付ければなんとか……!



今日告白するって、決めたんだから!



「あれ、永野先輩?」



アタシがロッカーに手を伸ばしていると、後ろから男の人の声がした。



アタシはこの声を知っている。



間宮くん、だ……。



アタシは真っ青になって、ゆっくりと振り返った。



「あの、俺のロッカーになにか用でも……?」



ああ、間宮くん。



相変わらずかっこいいな……。



と場違いなことを思っていると、間宮くんは下を向いて頭を掻きながら言った。



「……あの、もしかして、ラブレターを入れようとしてた、とか」



「えっ」



「あっ! ち、違うんです! 自惚れですよね! 永野先輩が俺のこと好きなわけ……」



「えっ、あ……」



違う。自惚れなんかじゃない。



あたしは……。



間宮くんが好き。



「お、俺、帰りますね……!」



「ま、待って!」



あたしは思わず、間宮くんの右腕を掴んだ。



さ、触っちゃった……!



間宮くんに、触っちゃったー! キャー!



「え……ッ!?」



あ、えと、違う! ラブレター、渡さないと……。



あたしはポケットをまさぐる。



あれ……?



ラブレターが、ない……!?



どうしよう、どこかに落としたのかも……!?



「あ、あの、先輩?」



あ、どうしよう。間宮くん、困ってる。



っ、えーい、ラブレターがないなら仕方ない!



あたしの口で、告白するんだ!



「──その、えーと……」



「は、はい……」



「それ! ラブレターまみれだから! 雪崩がですね……ッ!」



……。



…………。



あ、あたしのバカーー!!



ちゃ、ちゃんと、勇気を出して……。



次こそ、告白するんだ……!



もう、逃げちゃだめ!



「……そう、じゃなくて」



心臓の音がうるさい。



間宮くんにも聞こえてたらどうしよう。なんて。



「あたしは、間宮くんのことが……



 好き……ッ!」



時がゆっくりと流れていくのを感じた。



ドキドキ、心臓の音がうるさい。



あたしは間宮くんの顔を見るために、少しだけ目線を上げた。



目の前にいるのは、頬が真っ赤の間宮くん。



間宮くんが、口を開く──。



「『浮気』ですか?」



「……え?」



響いたのは、男の人の声。



間宮くんの声じゃない……知らない男の人の声。



「…………先輩」



次に聞こえたのは、今度こそ、間宮くんの声。



「……俺……」



間宮くんの返事を聞く前に、あたしの視界は黒に包まれた……。



──もし、この世界に神様がいたとしたら、



──やっぱりその人は、すごく意地悪なんだと思う。