黒歴史と四人の王子様



──食堂にて



あたしが食堂で、ひとりでカニクリームコロッケ定食を食べていると、向かいの席に男の子が座ってきた。



お盆の上は、あたしと同じカニクリームコロッケ定食だった。



「よ、久しぶり」



「……どちら様ですか」



「……やっぱり覚えてねーのな。シラズトワだ。よろしく」



……あ、思い出した。



不知 時和(シラズ トワ)。



らぶKOIでは確か、コイの幼なじみ……。本が好き。と、いう、設定。



切れ長の目に、ダークブラウンのところどころはねているくせっ毛。



そして、当たり前のようにイケメン。この世界にはイケメンしかいないのか。



あ、小説の世界だからか。



「ていうか、お前、1人なんだな。……てっきり、王子か加藤先輩あたりがつきっきりでいるのかと」



「あははー。ヒント、さっきの放送。満先輩はわかんないけど」



「……あー、モデルに生徒会、そういう『設定』だもんな。王子」



さっき白馬から聞いた話。



この世界の人たちはあたしの作った『設定』に縛られている。



彼らは、小説の中の日常を毎日演じる。



だから、授業も、部活も、異世界だからって、勉強しないわけにはいかない。



「なあ、次はどうするか、決まったのか?」



「……まだ、決まってない」



あたしは目をそらした。



この世界の住人はみんなあたしにそれを聞いてくる。



ずっとあたしの更新を待っていたのは、白馬だけじゃないのだろう。



「あー……急かしてるわけじゃない。ただ、読者が待ってると思ってだな」



「いやいやー。待ってるわけないよ。もう、あれの更新やめて三年も経、つんだ、よ……。



 !?」



不知くんは、目を見開き、ぶるぶると震えていた。



あー、うん。すごく、ショックを受けていらっしゃる……。



「……そうか。……みんな、俺達のこと……覚えてないのか……」



不知くんが水を一口飲もうとするけれど、手が震えすぎて全部こぼれてる。



「……本当に、覚えてないのか……」



そもそも3人しか読んでる人いなかったよ、この話。



とは、もちろん言えない。



しばらく沈黙が流れ、あたしたちはもそもそとカニクリームコロッケを食べる。



美味しい。



食べ終わったあと、ようやく沈黙を破ったのは不知くんだった。



「……そ、そうだ! 俺は、恋の小説をだな、手伝おうと思って……!」



「えっ……」



し、不知くん……! なんて優しいの……!



「不知くんは、ほんと……! ダメ出ししかしない某ですます変態男と某関西弁メガネと違って……いい子だねぇ!」



「え、えっと、あの2人は、多分恋のことを思って……あ! でも、恋に才能がないとか文才がないとかそういうわけじゃなくて……!」



慌てて2人とあたしのフォローを入れる不知くん。



その優しさは時に人を傷つける。



うん。2人にダメ出しされるより、グサッときた。



「……そもそも、俺はあの二人の言ったことの補足を言おうと思って……って、恋? どうしたんだ? 青ざめて」



「もー! イヤー! もうダメ出しされたくなーい!」



「違う!」



「ほ、ほんと? しない? ダメ出ししない?」



「と、とりあえずこれを見ろ! これが、携帯小説の練習のための『秘密兵器』だ!」



不知くんが取り出したのは、少女漫画だった。



クールな不知くんと少女漫画……似合わない……。