「あと、それから……そうですね。
恋、このページを、絵に書き起こしてくれませんか?」
白馬はホワイトボードを裏返した。
「い、いきなり言われても……さっき何やったか覚えてないし、衝撃的すぎて……」
「さっきのことは思い出さなくていいです。
むしろ、思い出さないでください。
本文だけを見て、書いてください」
白馬はさっきの赤ペンをあたしに手渡す。
ううん、あたし、絵下手なんだけど……。
「えーと、うーん……」
(由麻がいて……コイがいて……コイは、泣いていて、あと、ユマに倒されてたから……)
あたしは2人の棒人間を書く。
コイの棒人間は、泣いていて、尻餅をついている。
(由麻はチェンソーを持っていて……それから……遠くに白馬がいて……)
由麻の棒人間にチェンソーを、走っている白馬の棒人間を書き足した。
「……恋ちゃん、下手やな。絵」
う、うるさい!
「そんなことありません。わかりやすくていい絵ですよ。ところで……背景が真っ白ですが」
白馬の一言で、あたしはその絵に背景がなかったことに気づく。
それでまたホワイトボードを裏返して、背景について書かれた文章を探した……。
「……あれ? この文、背景について書かれてない……」
「あと、それから……コイ以外の表情もわかりませんね。由麻は顔文字で表現されてますが、僕はどうでしょう?
由麻に対して怒ってるのでしょうか?
それとも、コイが真っ二つに割られて悲しんでいるのでしょうか?
それとも……コイが死ぬかもしれないと焦っているのでしょうか?」
……。
…………。
「わ、わかんない……」
だ、だって書いてないんだもん!
そんなの分かりようがないよ……。
「そう。読者は、作者が何を考えているかわかりません」
「恋ちゃん一応作者やけどなー。せやなぁ。
恋ちゃんの小説を『少女漫画』に例えると、背景も書き込んどらんし、キャラはみんはのっぺらぼうのつるっぱげ。
恋ちゃんは、のっぺらぼうのつるっぱげに壁ドンされて萌える?」
の、のっぺらぼうのつるっぱげ……!?
「あ、えーと、そ、そういうのは、読者の想像にお任せしま──!」
「たしかに、会話文だけで楽しませてくれる小説はあるよ?
そういうのは、セリフで、キャラの感情とか表情とかを想像させてくれんねん。
恋ちゃんはそういうのないから……それに、携帯小説で大切なのは?」
「読みやすさ……です」
「恋ちゃんえらーい!」
また満先輩はパチパチと手を叩く。
く、くそう……。
「まとめると、文体はまとめてください。
背景についても、書き込むといい感じです」
「恋ちゃん、どお? 書けそ?」
「書けない」
「「じゃあがんばって」」
解決になってない……。
「あ、そろそろ俺時間やわー」
「……ふむ。僕もこれからすこし用事がありますね……まあ、二時間後くらいには戻ってこれますが」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って……! こんな変な世界にひとりにしないで!」
あたしは2人の服の裾を掴んだ。
「……」
「…………」
「「じゃあがんばって」」
2人はあたしの手を振り払ってどこかいってしまった。
鬼かこいつら!
