いつもの交差点を右に曲がりしばらくまっすぐ歩いていくと徐々に人通りが増えてきます。
朝に見た駅がビルのあいだから顔を出しました。
西口から入っていつもなら12番乗り場で電車を待つのですが、少し遊びたい気分もあり、今日が金曜日であることも後押しして私はなんとなく10番乗り場に足を進めました。
10番であることにかといった意味はありませんしどこに行きたいというわけでもありません。
きっとこの時の私の選択は間違っていたのでしょう。
素直に12番乗り場で電車を待っていれば、いえ、10番乗り場に足を踏み入れさえしなければ、こんなことにはならなかったのですから。
電子掲示板を見ると次の電車は7分後でした。ここで少し待つことになります。
暇を持て余した私はふと周りの様子を見渡しました。
横には仕事終わりなのかスマホをら片手に待つサラリーマン。
どこかへお出かけだったのかよそ行きの服装をした女性。
赤ん坊を抱いてその子に微笑みかけるお母さん。
いろいろな人がいました。
ですが私は数メートル先にいた一人の少女の姿から目が離せなくなりました。
特に美しい容姿をしていたとかおかしな服装だったという訳ではありません。
ただどこか様子がおかしいように感じたのです。
彼女は1mほど下にある線路をじっと見つめていました。
その虚ろな瞳のさきには何かがあるようには思えませんでした。
まるで何も無い未来を見つめているようでした。
彼女の様子を見ているとホームに電車が入ってきます。
やっぱり。
私の予想は的中しました。
あと7、8メートルで少女の前に電車が来るところで彼女は自ら線路に飛び込みます。
周りの人間が息を吸う音がきこえました。
彼らが叫ぶより先に体が動きました。
彼女のあとを追って線路に飛びこみます。
電車との距離はあと3メートルと言ったところでしょうか。
私の姿を見て唖然とする少女をめいいっぱい退避スペースに押しました。
あと2m。
まるで時間が止まったように感じます。
本当に止まっているのではないでしょうか?
これは例えばなしではありません。
本当にそう思ったのです。
電車が私にぶつかる直前私の視界に男の子の姿がはいりました。
彼はいつもの無表情なものとは似ても似つかない驚きの表情をしています。
それがなんだか面白くてクスリと笑ってしまいました。
朝日奈くんは目を大きく見開いて放心したように固まっています。
私が彼を見たその瞬間、私に大きな衝撃が走りました。
そこで私の記憶は途絶えました。
でも私は普通人間が死ぬ直前に感じるであろう恐怖心やこの世への未練を感じることはありませんでした。
だって私は…。