「...なんで、そんなこと」

「いやだってさ、佐崎くんにはじゃが供えてもらわなきゃいけないからさ」

「そうじゃなくて」

「お願いだよ、佐崎くん。佐崎くんも、いつかは忘れていいよ。その代わり、思い出さないでね」


残酷だ、彼女は。

僕は、いつの間にか彼女を特別に思ってしまっていたのに。

どうしてそんなことを言うんだ。

置いていかれる側の悲しみは、癒えることがないというのに。

僕の悲しみは、こんなにも深いというのに。

初めてだ。

人の苦しみを、人の傷を、人の死を、こんなにも考えたことはなかった。


「佐崎くん。私の幸せは、みんなが笑っていることだよ」


僕は、笑えないというのに。


「ほらほら、私の願いを叶えてよー!」


彼女はまた、クルクルと回った。



僕は、零れそうになる涙を、上を向いて必死に堪えた。

そして、目を閉じて、願った。


彼女のことを、みんな忘れてしまうように。


そして、目を開けた。


何も変わらない。

実感出来ない。


「ふぅ、お疲れ様ー、佐崎くん」


彼女は笑顔だ。

僕はどうすればいいのかも分からないまま、笑い返した。