さすがに自分から言い出しておいてかけないとも言えない…。


私はしぶしぶ携帯を取り出すと見慣れた名前を呼び出す。


HARUTO


ケータイに表示されたその名前を見つめて躊躇する。

ただ鳴り響く呼び出し音。

───その向こうにある風景はどんなものなんだろう‥?

ウザイ?

迷惑?

それとも‥

───同情?


「ナナ?」


「‥うん‥」


背中を押された形で電話をかける。


流れる呼び出し音。


1回‥

2回‥




7回‥




耐えられなくなって呼び出しをやめる。


───やっぱり。


やっぱり
‥出てくれない。



「…やっぱり出ないよ!やっぱり捨てられちゃったのかなっ!」


私は無理に明るく言ったけれど、
マユはただ「ナナ‥」って呼んだ後、もう何も言わなかった。


ただ、

私の向かいから横に座り直すとそっと抱きしめていてくれた。


ホントは泣きたかった‥。


でも、泣けなかった。