ズボラ女が恋する瞬間

「別に、待ってないし」


待ってるわけではない。

ただ、彼が終わりにしてくれないのだ。


「なら、新しい部屋借りなよ」

「お金ない」


嘘、お金ならある。

ただ、彼が契約更新するから。


「あんなに働いて、お金無いわけないでしょ。あたしより貰ってるくせに」

「美緒より仕事してるもん」

「もう、話そらさないでよ!今年、契約更新でしょ?」


なんで人のことなのに、美緒が知ってんのよ。


「今年こそは、あの男と別れなよ」


通勤ラッシュで行き交う人たちの中、美緒が立ち止まり真っ直ぐに言う。

ホント、お節介なんだから。

美緒は優しいから、あたしのことを心配してくれているんだ。

それはちゃんと、あたしだってわかってる。