「ねぇ…、葵。聞きたいことがあるんだけれど。」
「んー、なんだよ」
「今まで何してたの?別に、いいたくなかったら言わなくていいから。」
ずっと、もう一度会えたら聞こうと思っていた。私はあの時の返事をしていない。
葵は、覚えてるのかな…
「親が死んで、今はまぁ親戚んとこにいる。けど、なんか居心地悪くってさ、適当に女見つけて貢いでもらってるかな。それで、生活してる的な?あ、陽花にあった時も、ちょーど3人目の女に振られたとこだったな。」
決まった。こんなバカにいまさら告白の返事をする必要なんてない。
だいたい、過去の出来事なんだから。
「陽花、ついたぞ。」
葵の手が、私から離れる。温かった熱は、風に吹かれて一気に冷たくなる。

及川中は、都内の進学校と合併して今は、廃校となっている。私たちが卒業したあとの後輩たちから、都内の学校に通うことが決まったらしい。
正門に貼られた「立ち入り禁止」の紙を、葵はくしゃっとする。そして、軽々と高い正門を飛び越えた。
「来いよ、陽花」
「スカートだから、むり。」
「こーゆー時だけ女子かよ」
そういうと、また高い正門を私を抱き抱えて飛び越えた。
「連れてきてやったぞ、お嬢さん」
ニコッというより、ニカッという言葉の似合う葵の笑顔は、私の心の中にあった何かをじわっと溶かした。

階段を登って、屋上に行くまでつまらない生活を送っていたことを思い出す。いつも、くだらないことばかりを考えていた。人生とは、恋愛とは、今の自分を変えるためにはー…。味気ない中学校生活も、この思考の結論もいつの間にか葵のおかげで全て解決していたんだと思った。
「やっぱ、変わってねーなー」
な?と今度は、いたずらっぽく笑う。
「そうね、ここから見える景色もあの頃と変わってないもの。」
青いペンキのマンション。人通りの少ない公園。音がうるさい電車。
何年経っても変わらないもの。それは、人の気持ちも同じなのだろうか。

「ねぇ、私…葵に感謝してるのよ」
きっともっと早くに言うべきだった言葉。
「あなたのおかげで、私の中学校生活は変わって私も変われたわ。本当にありがとう。いまさら言っても遅いけど、どうしても伝えたかったから。」
「そーなの?別に気にしなくてよかったのに」
割とそっけない返事に、私は寂しさを感じた。
「でもさ、お前また隠してんじゃん。」
葵は、そういうと両手を空へと伸ばし体をグンッとさせた。
「隠してなんかないわよ」
「また、偽って殺してるだろ?自分のこと。」
「あんたに何がわかるのよ」
久しぶりに会って、突然いなくなって私がこんなふうに元に戻ったのは葵が原因なのに、なんなのよ。
また、イライラしてきた。
「陽花のことは、俺が一番よくわかってる。俺のこと、好きだろ?昔も、今も。」

何もかも見抜かれるー_
隠し事はできない。