今、僕は、どこまでも続く大海原を背にして立っている。
あの日、海人は母と畑仕事に精を出していた。
そして、届くはずはないと思っていた召集令状は父親のいない海人の家にも容赦なく訪れた。
夫に先立たれた母は僕の成長を何よりの楽しみにし、幼い妹達にとっては僕は兄であり父親のような存在でもあった。
終わりの見えない戦争で僕達家族は身も心も限界にきていた。
そんな中で僕の存在はこの家族の唯一の支えだった。
それなのに・・・
急に訪れた別れにも母の次子は気丈にふるまいいつものように日常を過ごし、海人の前では一度も泣かなかった。



