朝の散歩は、海人にとって何もかもが刺激的だった。
国道沿いの街並みや、流線型になった自動車や、人々の装いなど、僕の生まれた時代には想像がつかないほどに未来は進んでいた。
こんな平和な時代が訪れることを僕の家族に教えてあげたいと思った。
毎日ひもじい生活をしている妹達はきっと目を丸くして驚くことだろう。
妹達は元気にしているだろうか・・・
「海人さん、海の匂いがしてきたのが分かる?」
ひまわりの声に、海人は現実へと呼び戻された。
「もう少し歩いたら右側に海が見えてくるの。
急に景色か変わるから驚かないでね」
ひまわりは潮風を大きく吸い込んでそう言った。
僕の海の記憶は戦争で見た海しかない。
真っ青な海を見て一度も綺麗だと思わなかった。
孤独で苦しみに満ちた灰色の海。



