あの夏に僕がここへ来た理由




「パパ、行ってきま~す」


この日は、海(わたる)よりひまわり達の方が早く家を出た。


空は快晴だった。
お盆が過ぎてだいぶ涼しくはなってきたが、まだ八月のうだるような暑さは残っていた。

海人はお気に入りの水筒を首から下げて、おばあちゃんから買ってもらった帽子をかぶり、手を繋いでいる私を引っ張るように興奮気味に歩いていた。


「ママ、早く、早く」


電車を乗り継ぎバスに揺られ、海人はその間ずっと眠っていた。
ひまわりは海人の寝顔を見ながら、過ぎ去った月日を想っていた。


海人のお墓を訪れたあの日を、昨日のように覚えている。
あの時はこんな日がくるなんて夢にも思わなかった。

海人が70年前に死んでいた真実を知り、これからどうやって生きて行こうか、19歳の私は泣き明かす日々だった。

あれから10年が経ち、やっと胸を張って海人のお墓に報告できると、今はそう思っている。


そして、この小さな海人も、彼に見せたかった。