その時、足音が止まり、声がかけられた。
「死にたいの?」
聞いたことのある低音に体が固まり、背後に目をやった周は息を呑んだ。
そこに立っていたのは、1年のときから心に引っかかっていた、体操服姿の成海 諒だった。
見慣れない同級生に成海もまた多少驚いたようで、細くつり上がった眉をひそめている。双方が凍ったまま数秒の沈黙が流れ、はっと正気に返った周は目を泳がせた。
……なんでこの道に成海が?
この道は、私しか通らないはずの道なのに。
目に見えて狼狽し始めた周を前に、成海はつと口を開く。
「……確か、葉月 周だっけ」
久しぶりに名前を呼ばれ、咄嗟に反応することができず、周は成海の黒い瞳を見返す。成海は彼女の隣に屈むと、周の黒い手に視線を落とした。
「今 触ってたの、猫?」
それが自分に投げかけられた問いであることに気づき、周は黙って頷く。へぇ、と短く声をこぼした成海は猫の消えた先を見つめた。
「猫、好きなんだ。僕も猫の方が好きだな。犬よりも身近だから見つけやすいし。犬はうるさいからあまり好きじゃない」
彼はそばに伸び伸びと生えていた猫じゃらしを引き抜き、形を整えて宙に振る。犬の尾にも似たそれの動きは、少量の敵意も含んではいなかった。
「……あなた、だれ?」
顔を背け、周は彼に問い尋ねる。
成海はぼうと周の黒髪を眺めていたが、感情を読み取れない無機質な声で
「同じクラスの、成海 諒だけど」
と言った。



