沢田が怒鳴り、成海のそばで莉央は泣いている。
突然、胸をえぐるような言葉が詩織の声で再生され、成海の思考は止まった。
『やっぱり葉月さんが好きなの?』
瞬間、焦点がぶれた。
……違う。僕は葉月が好きなんじゃない。葉月が好きなら、こんなことはしない。
ただ、みんなが葉月を疑うから。
『あたし、知ってるよ。成海の秘密』
成海の体から、ふと力が抜けた。瞬きをするたびに紫の斑紋が増殖し、視界をおおっていく。うごめくソレは、蜘蛛の巣のように広がった。
『あたし、見てたから。付き合ってくれないんならみんなにバラすけど』
……誰も。
誰も、僕を、理解して、くれない。
不意にとほうもない浮遊感が成海の全身を包み込んだ。沢田の声が掻き消え、夏の暑さが寒気に変わる。
168センチの体が後方になだれ込む。
『どうする?』
……僕は、どうして。
目にうつる世界が、ゆるやかに反転する――。
木の椅子が地面にぶつかり、鈍器で殴られたような音が飛散し、成海は床に倒れこんだ。
「……ゔっ」
辛うじてついた腕は微力に衝撃の勢いを弱め、しかし背中をしたたかに打ち、意識が徐々に遠のくのを感じた。
呼吸が乱れ、冷や汗が額に伝う。
「成海、どうした!」
沢田が椅子をひっくり返して立ち上がると、目を閉じた成海に駆け寄り、肩を抱く。成海は沢田の呼びかけに反応せず、ぐったりと腕を垂らした。
「悪い、成海を保健室に送ってくるから待っていてくれ」
莉央に言い残し、沢田は成海を背負って慌ただしく第二理科室から去った。
振動を感じつつ、成海は意識を無くす。
葉月は、クラムボンじゃないのに。
だって……。



