夏を殺したクラムボン




成海の顔の前で短髪がたゆたい、淡いシャンプーの香りが空気中に散る。



「成海はなんであたしと付き合ってくれないの?やっぱり葉月さんが好きなの?」

「葉月が好きな訳じゃない。ただ……」

「なら、良いじゃん」



詩織は顔を寄せた。



それを避けた成海は壁伝いに横に移動し、軽くズボンをはたきつつ立ち上がる。彼の顔には困惑の色が浮かんでいる。



「……どうして僕?河野が何を考えてるのか知らないけど、僕は……」





「あたしが成海を好きになったのは、
 こないだの6月30日」





成海は動きを止め、静かに詩織を見つめた。詩織は満足げに笑い、床から成海の目を覗き込んだ。



「あたし、知ってるよ。成海の秘密」



扉の窓から差す日光が消え、仄暗い風が空間を包み込む。



詩織の目は爛々と光り成海をとらえた。



「あたし、見てたから。付き合ってくれないんならみんなにバラすけど」



成海は表情を消し、押し黙った。



一刻の沈黙が流れ、詩織は夢心地のように頬を紅色に彩る。



「どうする?」










成海はしばし眉を寄せていたが、ふっと笑みをこぼし言った。



「……あっそう。言えば?僕は構わない」



成海の言葉に詩織は目を丸くし、意味を察すると頬の肉を強く噛んだ。桃色の唇がわななき、歯型の跡がつく。



「くだらない。僕はもう行くから」

「……どこに?」

「どこでも良い」



成海は詩織を残し、階段を下りていく。



あとに残された詩織は歯ぎしりをしたが、成海の姿が見えなくなると、妖しく口元に半円を描いた。