成海 諒はごく普通の少年だった。
放課後の帰宅時、部活動で仲の良い浜田、窪田と学校の周りを走っているのをときおり見かける。
やや吊り上がった目を常時眠たげに細め、最近では珍しく自分のことを『僕』と呼ぶ。癖のある黒髪をよく友達に弄られているが、本人は一向に気にしていない。
特別背が高い訳ではないが、以前にちらりと見た体育の授業での動きは機敏で、運動能力は高いようだった。
そんな彼のどこが気になるのか、
周にもよくわからずにいた。
恋ではない。恐怖でもない。
脳に滲むようなその感情の名を、
彼女は知らなかった。
中学1年の秋頃、彼女を引き取った夫婦が頻繁に喧嘩をするようになった。罵り合い、時には物が壊れるような激しい夫婦喧嘩だった。
どちらとも血の繋がらない周が夫婦の喧嘩の火種になることもあり、家にいることはストレスになっていった。
徐々に家に居る時間は短くなっていき、学校に行く回数は減っていった。生活の中の全てが、彼女にとっての重圧だった。
やがて周は続けて欠席をすることが多くなり、学校に行くことをやめた。
部屋の中に閉じこもり、感情を押さえ込み、独りで勉学に励みつつ過去や現状から目を逸らす。ときどき外出することはあったが、ほんの10分、20分程度のことで同級生と会うことは極めて稀だった。



