夏を殺したクラムボン




独りになった周は数ヶ月を児童養護施設で過ごし、やがて新しい街の夫婦に養子として迎え入れられた。



夫婦は優しく、幼い頃の地獄とは正反対の生活を彼女は送ることになった。しかしその夫婦は共働きで、夜9時まで彼女が独りであることに変わりはなかった。



中学生になった彼女は周りの生徒たちと比べて浮いていた。部活動に入らず、体育の時間になればトイレの個室で着替えをし、休み時間になれば本を読んで時間を潰している。成績は上々だが、授業の発表時にも何の感情を発することもない。



また、長く黒い艶やかな髪は女子たちの憧れだったが、誰とも喋ることのない彼女の態度に反感を持つものも多かった。



絡まれこそはしないものの、たちの悪い陰口を言われたことは幾度となくある。



けれど、そんなことはどうでも良かった。それよりも彼女の不安は別のところにあった。



自分がかつて、
父親に虐待されていたことを
知るものはいないか。



態度にこそ表さなかったものの、彼女の胸は常に怯えでいっぱいだった。



友達と呼べる人間は1人もいない。挨拶を交わすクラスメイトもいない。彼女は独りだった。



ただ、ときどき廊下ですれ違う、
成海 諒という少年のことが気になった。



同じクラスではなく、話したことはない。手が触れたこともない。
彼と彼女を繋ぐ接点は、何一つとして、ない。