「どういうことだ?葉月、ちゃんと説明を……」
「ごめんなさい……
ごめんなさい、許してください……
悪いのは、私です、ごめんなさい、
“……うさん”」
「葉月」
沢田の声は周の耳に届かず、彼女は同じ言葉を反芻し、両手で耳を塞ぐ。
空気が、一瞬陽炎のように揺らいだ。
「……やったのは葉月じゃない」
成海がとつりと言葉を紡いだ。
「僕が来たとき、すでに6人が教室にいた。あんまり覚えてないけど……窪田、真木、河野くらいしか」
「そうか……じゃあ、葉月の机に近づいた奴はわかるか?」
「ぼんやり寝てたから、詳しくは知らない。でも誰の気配も感じなかった」
「葉月が誰かにいじめられていたとか、そういうのは無かったか?」
そのとき、成海の足に何かが当たった。さりげなく下を見れば、落ち着きを取り戻したらしい周の足が彼の上靴をつついている。
数秒黙りこくり、成海は
「……なにも」
と答え、目をこすった。
「……そうか。ありがとう」
沢田は指を鳴らす。
「もう、何もないよな?」
それは微かに、威圧の声を含んでいた。
「じゃあ教室に……でも、特に葉月、無理そうならここにいて休んでいてもいい。成海はなるべく早く教室に戻るように。また放課後に詳しい話を聞くから」
沢田は腰を上げ、鍵のかかった扉に向かう。
彼が扉に手をかけたとき、周の澄んだ声が静かに染み渡った。
「……先生」
「まだ、なにか」
「……クラムボンって、なんですか」
「え?」
沢田は瞠目して振り返り、成海もまた、ちらりと周を見た。



