夏を殺したクラムボン




鋭利な刃物で腹が裂かれ、内臓の幾つかは飛び出している。片目はない。残る1つの青い瞳は光を失い、恨みがましく虚空を捉えている。





「……僕は、許さない」





誰にも聞こえぬ声で成海が囁いたとき、校舎にチャイムが鳴り渡った。



チャイムのあと、廊下から聞こえてきた足音に生徒たちは狼狽する。扉が開き、場違いな声がその人物から発された。



「おはよう!全員席につけよ……
 ん?どうした?」



誰一人として動くことのない空気の異常さに気づいた沢田は扉の前で足を止め、戸惑いつつ辺りに目を配り、力なく立つ莉央に問いかけた。




「学級委員、何があったんだ」

「え?……あ、いや……あたしは関係なくて、葉月、さんの、机から……ねこ、が」

「先生」



詩織が机から飛び降り、会話を遮って成海のそばの床を指差した。



「葉月さんの机の中で……猫が死んでました」

「え?」



沢田は半信半疑とでも言うように目を見開き、教卓に荷物を置いて周の机のそばに足を運び、息を呑んだ。



成海は窓外を眺め、蝉の合唱に耳を傾ける。



「……誰がやったんだ?おい、名乗り出ろ!」



沢田は眉間にしわを寄せて叫ぶが、生徒たちは困惑したように互いに顔を合わせた。



「ふざけるな!これはいたずらの範疇を超えているぞ!誰だ、やったのは!」



静寂が浮かぶ。



沢田は頭を抑え、



「河野、関係者は誰だ」



と詩織に訊いた。



「関係者は、葉月さんと……成海です」



名前を呼ばれた成海は詩織を一目し、真っ直ぐに沢田の顔を見据える。



「成海が?……そうか、じゃあ2人、話を聞くから今すぐ第二理科室に来なさい。他の者は、難しいだろうけど普段通りに読書。猫は、教頭先生に言っておくからな」



周がゆるりと立ち、長い髪で顔を隠しながら歩く。赤い手が揺れる。



成海はしっかりとした足取りで教室から出ると、ひと気のない廊下を伝い、第二理科室に向かう。



教室から出る2人の背中を、窪田は拳を握りしめて睨みつけていた。