読書の時間中、クラスメイトたちは落ち着かない様子で空白の席をちらちらと見ていた。沢田も彼らの異変に気づき、
「ちゃんと集中して読めよ」
と注意を促す。
ページをめくる音が狭い空間に響く。本に顔を埋めて眠る生徒もいれば、本を片手に漠然と黒板を目する生徒もいた。
本日二度目のチャイムが鳴り、2年4組の生徒たちは一斉に本を机の中に片付け、そわそわと視線を揺らしながら前を向いた。
成海は推理小説を床に置いた紺色の指定リュックに放り込み、机に伏せて息を吐く。夜更かしをしたわけではないが、微量の眠気が成海を誘っていた。
沢田は教室が静まったのを見計らい、深刻な表情で口を開く。
「えーと……おはよう。連絡だが、最近、街で小動物等々……が不審者からいたずらを受けているのを知ってる人もいると思う。詳しくは言わないが、かなりひどいいたずらだ」
教室の空気に緊張感が漂う。
しかし成海は沢田の話に半分ほど耳を傾けつつ、机に伏せたままあくびをして目を瞑った。成海の隣に並ぶ、空白の席が目立っている。
「だから、不審者に狙われないために友達と団体で帰るようにな。絶対に一人では帰らないように。どうしても一人になる奴は、人通りの多い道を選んで帰れよ。それと……校内で変な噂が流れているようだが、デタラメに信じるなよ」
浮遊感を感じ始めた柔らかな意識の中、成海はぼんやりと思考する。
……を殺したのは2年4組の、って噂か。
唐突に前方の扉が大きく音を立てて打ち開かれ、成海は顔を上げた。