一人足音を立て、周は席にリュックを置いた。
「私には、浜田を殺す理由がない」
「それは……」
莉央は口ごもる。
バカバカしい、と一蹴して周は机の上に座った。めくれた紺色のスカートから細い脚が見える。
「理由も無いのに人を殺す訳ないでしょ」
「……浜田が、嫌いだったんじゃないの」
蚊が鳴くような声で莉央は言った。
「そんな理由で?」
ばかじゃないの、と言った周の声は波紋を描いて全員の耳に届く。
「真木さんなら、そんな理由で人を殺すの?」
「あんたならあり得る。あんたみたいな根暗、浜田みたいな奴 嫌いそうだし」
「別になんとも思ってなかったけど。真木さんの勝手な感情で八つ当たりしないでくれない?」
「だまれ!」
口論は徐々に激しくなり、莉央の表情にもはや冷静さはなかった。普段は感情の読めない周の目も、心なしかぎらついているようだ。
時計を眺め、周に話しかけることを諦めた成海はそっと席に座り二人の会話に耳を傾ける。
白い百合は、静かに佇んでいる。
「どうせ、昨日の犬もあんたでしょ?殺人鬼、あんたなんか死ねばいいのに!」
「私はやってない」
「浜田が気に入らないから殺したんでしょう?そのうちまた誰かを殺す気でしょ」
「そんなことしない。だって私は真木さんじゃないから」
「わたし?わたしは正常だからそんなことする訳ないじゃない。あぁわかった、あんたさ、昔、父親に……!」
「うるさい!」
周が飛び降りたはずみで机が倒れ、耳をつんざくような騒音が反響した。
リュックが地面に落ちたことも気にせず周は莉央の白いセーラー服の胸元を掴みあげた。
「じゃあ、殺してあげようか?
そんなに殺されたいならさ!」
「放して!」
風船の破裂を連想させる鈍い音が散った。



