「母さ、ん……」
肩で息をする。
喉がじりじりと痛む。
ポルシェから下り立った高身長の男性は、笑みを浮かべて女性に近寄った。彼女も笑顔で歩み寄り、やがて何事かを囁きながら強く抱き合う。
彼女が一瞥を成海に投げかけ、目が合った。交差する視線。
しかし彼女は不思議そうな表情をし、すぐに目を逸らすとポルシェに乗って走り去った。
足が震え、全身の力が抜ける。
脳が霞んでいき、真冬の雪景色のように、真っ白に染まる。
……母さん。どうして。あの男はだれ。
僕は誰から生まれたのか。
父さんも母さんも、僕に気づかない。
どうやったら、僕に気づいてくれる?
僕は、だれ。
長い全力疾走のあと、
孤独な心音が、全身に満ちていく。
中2の夏、成海は赤い手を両肩から垂らし、晴れ渡った青空を仰いだ。
……僕を見て。猫を殺したんだ。
なのに、どうしてだれも僕だとわからない?
血まみれのナイフを手に、成海はひとり、夜空の星を数えた。
友達を殺した。
きっと、父さんも母さんも、
僕に気づいてくれるだろう。
父さん、母さん、僕を、見て。



