響くのは、自分自身が立てる足音のみだった。外は明るいが、電気の消された校舎には影が満ちており、薄暗い雰囲気を漂わせている。
どこからか、笑い声が聞こえた。
2年1組の教室には誰もおらず、2組の教室はすでに扉が閉ざされているようだった。沢田は5時頃に教室の鍵を閉めるため、4組の教室の錠はまだ開いているだろう。3組の黒板には、派手な女子たちによる落書きが描かれている――。
「……どうする?」
4組の扉まであと数メートルというところで、2限目に耳にした、女子の声が届いた。
……この声は。
思わず足を止め、周は眉を寄せる。
無意識に足音を忍ばせ、周は2年4組の教室へ少しずつ歩みを進めていく。
その声に織り込まれていた緊張感からか、心臓がめちゃくちゃなリズムを打ち、手のひらに汗が滲んだ。
男子の、低い不明瞭な声が続く。
……いったい、何を話しているんだろう?
見つからないように背中を曲げ、周は前方の扉に付けられた小窓から、教室の中を覗く――。
「……ねぇ、知ってた?」
赤い柄の凶器から、長く伸ばされた刃。
後方の窓に体を押し付けられ、冷ややかに目の前の人物を見下ろしている男子。
男子の肩を左手で掴み、カッターナイフの刃を彼の喉元に突きつけている小柄な女子。
成海 諒と、河野 詩織。
詩織は口元を弓なりに歪め、言った。
「クラムボンは、あたしなんだよ?」



