周はうずくまり、声を押し殺して泣いた。
成海は再び塀にもたれ、一言も発することなく周を見ていた。
厚い雲が割れ、二筋の光が街を照らす。
「……昔、父親に、虐待、されていたの」
濡れた声色で紡がれていく言葉に、成海は黙って耳を傾ける。
父親は死に、夫婦に引き取られ、それでもまだ生きていく場所がない。
「……ずっと、死にたかった」
周の涙が手の隙間からこぼれ、深緑の雑草を伝い、地面にあとをつけていく。成海は腕を組んだまま、口を開いた。
「じゃあ、僕が力になる。だから、明日から、葉月は……学校に来てよ」
「……え?」
涙で汚れた顔を上げ、周は成海を見つめる。
「葉月のことは誰にも話さないし、1週間だけだっていい」
成海は腕組みを外し、周に目線を合わせ、しゃがみ込んだ。
「僕が、力になる。約束するから」
「……わかった」
ぼやけ、輪郭を無くした世界で、成海は周に微笑みかける。湿り気を含んだ夏風が吹き、成海の癖っ毛と周の長い黒髪をなびかせる。
木に張り付いていた蝉が音もなく飛翔し、夏の曇り空に向けて羽ばたいていった。
やがて2人は立ち上がり、それぞれの帰路を歩んでいく。
……どうして、
成海は私の顔を、知っていたのだろう。
周は手の甲で涙を拭い、より強いものとなった成海への感情を、心の隅にしまった。



