「噂をすれば彼からじゃない?」

「いやいや、そんなまさか」


それはいくら何でもタイミング良すぎだろう。そう思った私はそれを何気なく手に取って、その場で読んでしまったことを後悔する羽目になる。


『気にしなくていいよ、偶然松井のこと見かけただけだから。朝から会えて嬉しかった』


「……」

「どうしたの?」

「あ、いえ、何でもっ」


今朝のことについて、取り急ぎメールで謝罪をしていたのだった。律儀な染谷くんはいつもしっかり返事をくれる。ストレートな最後の一文が、私の頭の中を支配した。


(嬉しいけど、すごく恥ずかしい!)


咳払いをして気持ちを切り替えようとするが、うまくいかない。急にきょろきょろと落ち着かない私を室長は不思議そうに見ている。


ーーこんな些細なことで動揺していて、この先やっていけるのだろうか。


同期とは言え、元々住む世界が違うような人だ。そんな彼の態度や言葉は、いつも私を優先してくれる。日々起こるそれは嬉しい半面、不安の陰を感じることもあるのだ。


(……こんな自分が情けない)


私は、頭を冷やそうとカップに残っていた冷めたコーヒーを無理やり飲み干した。