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夕暮れが少し濃くなった道を歩く。まだお互いの表情が確認できるほど明るく、それがまた気恥ずかしさを助長する。

そんな中、ふと先日高瀬くんに言われたことを思い出した。


「私って小悪魔なの?」

「小悪魔、って?」


何の気なしに尋ねたところ、一体何の話? と聞き返される。どう言おうか悩んだが、私は高瀬くんに言われたことをそのまま説明した。


「高瀬くんに〝家まで送ってもらったら門前払いするな〟とか〝部屋にあげてお茶くらい飲ませろ〟とか、色々アドバイスをもらったんだ。この前は気が利かなくてごめんね」

「……」


はあ、と大きなため息の後、染谷くんは呆れたように呟いた。


「あいつ、本当いらないことを……」

「え?」

「ああ、いや、何でもない」


そのまま交差点を曲がって、少し進むと、私のアパートの前にたどり着く。


「今日は楽しかった。これからもいろんな所に行こう」

「うん」

「じゃあ、また」


そのまま手をあげて離れようとする染谷くんの腕を、私は慌てて捕まえた。

ーーこのままでは、また失敗してしまう!


「待って……!」

「うわっ、松井?!」


私が突進したことにより、よろけてしまった染谷くんをそのままアパートの壁に押しつける形になってしまった。


「お、お茶! 部屋にあがってお茶でもどう?!」

「は……?」


数秒ー実際にはもっと長く感じたがー私たちは無言で見つめ合った。高瀬くんにああ言われてから、部屋も少しは掃除できたし今日は大丈夫だ。


「……ぷっ」

「えっ、なに? どうして笑うの?」


それから染谷くんが目尻に涙を浮かべるほどの大笑いを始めたので、私の頭は混乱した。

ひとしきり笑い終わると染谷くんは、私の頭を2、3度、優しくなでる。


「ーー誰かの言うことなんて、気にしなくていいよ。俺たちには俺たちのペースがあるからさ」

「う、うん?」

「お茶はまた今度にしよう。……それじゃあな」


笑いながら帰って行く染谷くんを不思議に思いながらも見送った。




翌週、高瀬くんに今度は〝天然小悪魔〟という更に長いあだ名を付けられることになるとは、この日の私はまだ知らない。



「松井、聞いてくれよ。最近染谷が口聞いてくれないんだけどーー」




終わり