「染谷くん、本当にいいってば」

「遠慮するなよ」

「だってまだ明るいし……」


駅の改札内に入った私たちは、つい最近覚えのある応酬を繰り広げていた。染谷くんは、私の最寄り駅方面行きのホームへと歩いていく。このままでは、またしても染谷くんが家まで送ってくれることになってしまう。


「ねえ、本当に……っ!」


焦った私は、必死に染谷くんが羽織っているシャツの裾を引っ張って止めようとするが、逆に手首をしっかりつかまれてしまった。その瞬間一気に血が上り、カッと顔が熱くなる。


「そめ、たにくん、あのっ」

「……そんなにかわいい格好して、何かあったらどうするんだよ」

「へ……」


染谷くんは、私を黙らせるプロかもしれない。服装のことなんて、今の今まで何も言わなかったのに。
真っ赤になって急におとなしくなった私の手を引いて、染谷くんは歩き出した。


「素直でよろしい」


絶対にわざとだと分かる言い方をする染谷くんに、顔も上げられないままついて行く。

電車に乗ると、そっと手を離してくれた。
窓ガラスに映る自分の姿を改めて確認したが、至って普通のボーダー柄のワンピースが映っているだけだ。


(……してやられた感が)


隣でつり革につかまっている染谷くんを盗み見ると、涼しい顔をして窓の外を眺めていた。