「美味しい……」

「だろ?」


思わず漏れた独り言に、染谷くんが相づちを打つ。消化に良さそうだと選んだリゾットだったが、当たりだったようだ。野菜を使ったスープで煮込まれているようでほんのり旨味を感じる。けれどもそれは決して物足りない薄味ではなく、口の中に幸福な気持ちが広がっていくほどの優しい味付け。


「ここのはどれも美味いんだ。……いつか松井を連れて来たいってずっと思ってた」


はにかむ染谷くんを見ていると、料理は味だけではなく一緒に食べる人も大事なのだと気付かされる。こうして一緒に楽しい時間を共有して、他愛もない話に花を咲かせて。


「松井、こっちも食べてみて」


染谷くんが、自分の食べていたハンバーグを小さく切って分けてくれる。口に入れた瞬間、肉汁が溢れてきてこれもまた絶品だった。


「俺、ここのハンバーグで何度も口の中ヤケドしてるんだ」


いつも美味すぎて我慢できなくなるんだよな、と無邪気に笑う染谷くんの姿は、平日の仕事中には絶対に見られない。


(あの染谷くんが、はしゃいでる)

「ふふ」

「……笑うなよ」


微笑ましいエピソードに思わず笑うと、拗ねた振りをされた。結局目が笑っているから、本気ではないことも丸分かりだが。


(もっと、染谷くんのことを知りたいな)


またこうして染谷くんと出かけられたらいいな、と願わずにはいられないひとときとなった。