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映画はとても面白かった。
その道では有名な監督が撮ったもので、くすりと笑える小さなものから、思わず声を出してしまうほどの爆笑シーンまで随所に散りばめられていて大満足だ。久しぶりにお腹の底から笑えた気がする。


「はー面白かったね」


映画館を出て歩きながら感想を言うと、染谷くんも笑い疲れたと言ってまた笑っていた。

遅めの昼食にしようと、私たちはカジュアルなレストランに入った。気取りすぎない洋食屋さんといったところだろうか。染谷くんが半年ほど前に仕事で使って以来、気に入って時々食べに来ていてる店らしい。


(さすが営業さん。お店詳しいな)


席に着いて注文をした後、水を飲みながらそんなことを思っていた。下を向いて会社連絡用の携帯電話を確認している染谷くんの、前髪がさらりと揺れる。


ずっと言いそびれていたことを言うのは、今しかないと思った。どうしても、あの時言えなかったお礼を伝えたい。


「染谷くん」

「ん?」


呼びかけると、顔を上げて私を見る。いつも通りの優しい表情に思わず顔が熱くなった。


「この前新しくできた、対応記録のシステムのことなんだけど。……染谷くんが企画したって聞いて」

「あ……そのこと知ってたんだ」

「うん。本当にありがとう。おかげで仕事の効率がすごく良くなったんだ」


面と向かってお礼を言うというのは、なかなか照れる。私は何とか言い終わるとすぐに、目の前の水に手を伸ばした。


「いや、俺はただ提案しただけだよ。何もできないのがもどかしくて」


代わりに高瀬には無理させたよ、と小さく呟く。

仕事だから時にシビアになることは仕方ない。ましてや同じ役割でもないから、尚更だ。そんな中でもお互いを尊重し合っていて、本当に2人は良い関係だと思う。


「染谷くんも高瀬くんも真剣に取り組んでいて……私、いつも自分のことばかりで、情けなくなっちゃう」


へらっと笑う私を見て、染谷くんは軽く頭を横に振った。


「俺たちは松井の努力する姿を見て動かされたんだ。システムを提案するきっかけになったのは松井の対応記録だよ。毎日顔も知らない顧客の対応をして、遅くまで丁寧に記録を付けて。それを知って、少しでも力になりたいって思ったんだ。だから」


そこで染谷くんは、急に黙り込んだ。
私をじっと見据える黒目の部分が、少し揺れたように見えて。頬骨の辺りがうっすら染まる。


「……松井はそのままでいいよ。俺たちが、全力でフォローするから」


不思議だ。
染谷くんに言われると、心がすーっと落ち着いて、穏やかな気持ちになる。

何か言いたいのにうまく声が出せずにいると、タイミングを図ったかのようにランチが運ばれてきた。


「食べようか」


染谷くんの一言で、一旦食事に専念することにした。