映画館は駅から歩いてすぐの大きな商業施設の中にあった。建物の中に入ると、家族連れやカップルでごった返している。私たちは人混みをすり抜けながら、上にある映画館のフロアへ移動した。


「松井、俺これが見たい」


チケット売り場の前で染谷くんが指差したポスターは、最近公開されたコメディー映画のものだった。……実は密かに見たいなと思っていた作品だったので、私は即賛成した。

飲み物も買って、早々にチケットに書かれた座席に着く。まだ館内は明るく、予告も始まっていなかった。映画が始まるまでの待ち時間に、私は前から気になっていたことを聞いてみることにした。


「染谷くん、前にいつも私に助けてもらってるって言ってたよね。私、あれからずっと気になってて……」


ふかふかの椅子に沈み込みながら、全く心当たりが無いと話すと、染谷くんは「ああ、そのこと」と笑う。


「松井の対応記録だよ。あれ本当にすごいな」

「え?」


何で私の対応記録なんだろう。疑問が顔に出ていたようで、私の方に顔を向けた染谷くんは更に嬉しそうに言った。


「営業活動がうまくいかずに悩んでいたときに、上司に相談したんだ。そうしたら、今現在の顧客との会話が有効なんじゃないかって言われてさ」


染谷くんは目を細めて、懐かしそうに言う。


「……俺たち営業には言えないことも多いみたいで、訪問してもなかなか本音を聞き出せないんだよな。それで、お客様相談室の対応記録のことを思い出して」

「……染谷くんも悩むことなんてあるんだ」


初めて知った染谷くんの過去に驚いて、ほー、と息を吐くと、ふふ、と笑い声がした。


「そりゃあるよ。松井は俺のこと何だと思ってるの」

「いや、だって染谷くん最初から何でも出来たから」


心の中で完全に神格化していました、などとは口が裂けても言えない私は、慌ててごまかす。すると、染谷くんは私にとって衝撃的な事実を教えてくれた。