いつも通り商店街を通り、駅に着く。ひとりで帰るときに比べて、染谷くんと一緒に帰る方がずっと早く到着した。染谷くんの力はやはりすごい。
「待っててくれてありがとう。じゃあ私、こっちだから」
染谷くんとは帰る方向が反対のため、駅の改札に入ったらお別れだ。次一緒に帰れたら、私からもっと話しかけられるように頑張ろうと密かに決意した。
染谷くんが反対方向へ歩き出すのを待っていると、その場に立ち止まったままで困ったような顔を私に向けた。
「もう時間も遅いし、家まで送らせて」
「えっ、え!?」
反対方向だというのに、そのまま染谷くんは私の利用するホームへと歩き出した。
「待って、そんな、大丈夫だよ」
このくらいの時間まで残業することはよくあるというのに。私は先を行く染谷くんを慌てて追いかける。
ホームには電車を待つ人が列を作っていた。私が染谷くんに追い付くと、電車到着のアナウンスが聞こえた。
「染谷くんが帰るの遅くなっちゃう」
「俺のことはいいから」
「よくないよ!」
そんな押し問答をしていたら、電車が滑り込んでくる。染谷くんは私を電車に押し込むと、自分も乗り込んだ。
「どうしたの、急に」
思ったより乗客が多くて、私たちはドアの近くに立っている。私の問いかけにしばらく無言だった染谷くんは、私の方に一歩寄ると、私のこめかみ辺りに顔を近付けてきた。
「名残惜しくなっちゃって」
「……」
他の人に聞こえないように囁かれると、私の体温は急上昇した。もし私が水だったらいきなり沸騰するくらいの体感温度だ。
結局逆らえないまま染谷くんに家まで送ってもらうことになり、私の家の最寄り駅で下車した。