「松井は? どうだった? 今日」


不意に話を振られて、一瞬で緊張のピークがやってきた。私は、面白い話なんてできないし、場を繋ぐようなネタも持っていない。


「わ、私は、特に何も……」

「そうだよな。松井のところは忙しそうだし」


そう言ってすぐに、別に俺だって暇してるわけじゃないから、と慌てて言う染谷くんに思わず笑ってしまった。
私が気まずくならないように気を遣って話してくれていたのだと、その優しさを知る。本当は、染谷くんの方が何倍も忙しいのに。


「私は、要領が良くないだけだから」


染谷くんと同じ土俵に上がるだなんて、おこがましい。私は、ぶんぶんと首を振った。


「それだけ丁寧に仕事をしてるんだよ、松井は」

「……」


褒められ慣れていない私は、何も言い返せなかった。照れ隠しにバッグの持ち手をぎゅっと握る。小さく皮のきしむ音が聞こえた。