「でも松井さんたちのお陰ね。うまく隠れられたわ」

「どういうことですか?」

「今社内で一番の噂は松井さんの方だからね。こう言っては悪いけど、タイミングとしてはラッキーだったかな?……実を言うと、私も誰に何を言われるかとビクビクしていたから」


堂々と女子社員の多いカフェに来たり、余裕の表情を浮かべたりしているので、てっきり室長にとっては大きな問題ではないものかと思っていた。
そういう彼女の強さの内に隠してある部分に、高瀬くんの好きになったきっかけがあるのかもしれない。いつか話せる時が来たら、是非聞いてみたい。

トマトの、酸味の中にもほのかに感じる甘味が私の心を癒してくれる。室長に見とれて遅れをとってしまった私は、残りのパンを急いで口に入れてカフェラテで流し込んだ。これじゃあいつもと同じだと苦笑しながら。

毎日こんな調子で果たして成長できているのかという疑問が頭をよぎるが、そんな後ろ向きな考えはもう止めたい。染谷くんはいつも気を遣って言ってくれるが、いつか本当に彼の助けになりたいと強く願う。