「私、ここのカフェ大好きなの」

(ここって……)


そう言いながらドアを開ける室長に続いて、私も店内へ足を踏み入れた。いつも混んでいて座れないこともあるが、幸か不幸かちょうどソファー席が空いている。背の低い木製のテーブルに向かい合う形で置かれたソファーはふかふかと座り心地が良く、私のお気に入りの場所だ。

席に着くとすぐに店員さんがやってきて、注文を取ってくれる。このカフェのおすすめランチはトマトを使ったサンドイッチなので、2人ともそれを注文した。


(落ち着かない……)


普段の私なら真っ先にリラックスして文庫本でも読むところだが、今日はそわそわしてしまい、やけに喉が乾く。店員さんがおしぼりと一緒に持ってきてくれた水に何度も口を付けた。


「心此処に非ず、って感じね」


室長はくすくすと笑う。普段はバリバリ仕事をするビジネスモードの彼女だが、時々大人の色気の中にかわいらしさを覗かせることがある。


「室長、よくこのお店にしましたね……。私、今日はずっと誰かに見られてる気がします」


こっそり辺りを伺うと、うちの会社の女子社員が多くいることがすぐにわかった。みんなこちらをちらちら見ているからだ。


「気にすることないんじゃない。別に悪いことをしているわけじゃないんだし」

「それはそうなんですけど……」

「お待たせしましたー! ランチサンドですー!」