「幻滅なんて、するわけないよ。染谷くんは新人研修のときからずっと、私の憧れだったんだから」


勢いで言ってしまってから、ハッとした。慌てて口を押さえるも、時すでに遅し。染谷くんは驚いた顔をしている。


「松井、それ本当?」


適当に流してくれるように願ったが、立ち止まった染谷くんに聞き返されてしまい、赤い顔のまま頷いた。


「ふーん。そっか」


言い方はさり気ないが、口元を緩ませている。私は何かおかしなことを言ってしまったのかと不安になり、おそるおそる尋ねる。


「……どうかした?」

「いや。少しでも松井の頭の片隅にいられたかと思うと、嬉しくて」


そんなことを言われてしまい、私は更に顔を赤くするしかなかった。

染谷くんは、いつだって自分の行動に責任を持つ人だ。さっきからなだれ込んで来る言葉に乗せられた情報の数々に、私の頭は疑ってばかり。本当に染谷くんがそう思っているのかどうか、私は確かめることにした。


「染谷くん、あの、本当に……」

「ん?」

「いや、だから、その……」

「なに?」


もう絶対私の聞きたいことはわかっているはずなのに、言わせたいのか顔を覗き込むようにして聞き返してくる染谷くん。


「き、気が変わったなら変わったで、大丈夫だから。私、染谷くんには釣り合わないことくらいわかってるし!」


まくし立てるように言うと、肩でぜいぜいと息をした。どうしてもっと気の利いた言い方が出来ないのだろうと、終わった後でいつも後悔する。今のでもし気が変わってしまったらーー。


「松井はいつも、自分のことを悪く言うけど」


ゆっくりと、静かな声にハッとする。染谷くんは私の思考を遮って話す。


「根詰めるとやられちゃうからさ、もう少し自分のことを信じてみなよ」

「信じる……」

「うん。俺、松井にはいつも助けてもらってるし、すごく信頼してる。それに」


一旦言葉を切って、私に目線を合わせて。
今までで一番の笑顔を見せた。


「松井のこと、これからも一番そばで見ていたいし」


ーーところで。さっきの松井の言葉、本心だよね?


改めてさっきの必死な告白を蒸し返されると、恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだ。少しだけ意地悪そうに目を細めた染谷くんから思わず目を逸らすと、くすくすと笑う気配がした。